家のエイジング
2009.08.09 Sunday
Helmets Labo
佐々木喜樹建築研究室
オオカワ建築設計室
今井哲朗デザイン事務所
コヤマケンタロウデザイン事務所
Helmets Laboのオフィスは築40年、廃墟歴20年の一軒家をオフィスとして改造した素敵な空間。私の家の建築家佐々木さんのオフィスもここにあります。
佐々木さんから頂いたそのHelmets Labo通信の中で気になる特集が「Aging」
そのまま引用させてもらいます。
家や建物をつくる時いつも思う。折角つくるのだから永く住んで欲しい。永く愛される家となって欲しいと思うのだ。家は住む人の思いを形にするすることだと考え、その思いを探り当てる事に設計の作業を集中させる。そんな中での具体的な話としてこれからつくる家は一体何年持つ家にすればよいのかと聞いてみる。聞きようによってはずいぶんと乱暴な質問で、聞かれた方は答えようがなくて困ってしまうのだが、子供の世代に引き渡したいというのがあらかたの答えとなる。待ってましたとばかりに経年変化に耐えられる、メンテナンスしながら美しく老いていくゆける素材を提案すると、だいたいの場合難色を示される。手間のかからない材料にしてくださいと言われてしまうのだ。世の中にはメンテナンスフリー、つまり手間いらずを売りにした建材が多く出回っている。しかし我々からみるとそれはメンテナンスが不要なのではなくて、その時期を遅くしているに過ぎないし、メンテナンス不可能な材料だったりする事がとても多い。
たとえば、家の構造体の寿命が50年だとして、その建物に使われる外壁材の寿命が同じく50年ならばメンテナンスフリーの外壁材だといえるのかもしれないが、実際にはそうは行かない。放っておけば外壁の寿命は構造体のそれよりも遙かに短いのだ。一件の住宅に使われる材料をパーツ点数で数えれば2万パーツにも及び、その一つひとつの寿命は皆異なる。その各々ががっちりと接着されていれば、当然寿命の短い方に全てが匹面れてゆく事になる。建物を永く使いたいと思うのであれば、寿命の短いもの程、メンテナンスが可能な材料を選定しておく事が大切となる。
家は建ち上がった時から劣化が始まる。日本のほとんどの地域で年間温度差は30度を超える。高温多湿で台風もあれば地震もある。ならば建ったその時がいちばん良い事になるんだが、必ずしもそうでも無いと言う考え方に立ちたい。家は住みながら住む人に馴染んでゆくのだ。そこで営まれる生活習慣に呼応してゆくと言っても良い。「家のエイジング」である。古い=劣化という視点に立つと、何かもの悲しい思いに及んでしまうが、古い=新しい価値と考えられると俄然力が湧いてくる。完成の瞬間から劣化が始まる家に住む、誕生の瞬間から老いが始まる人間。エイジングをキーワードに新しい価値を再確認してみたい。
エイジングと聞いて何を思うだろうか。直訳すればAge+ing=年を経る事、人で言えば老化であり加齢である。なんだか後ろ向きな言葉に聞こえるが、昨年良く耳にするエイジングは必ずしもそうでは無いようだ。このAgingと言う言葉をキーワードにものつくりについて考え、家や建築について探ってみる事にする。
Aging-01
人はこの世に生まれて歳を重ねてゆく。成長してゆくのだ。しかしどこかのある段階からそれは成長ではなく加齢と呼ばれ老化となり、多くの場合受け入れたくないものとして立ち塞がる。ならば何才までを成長と呼び、何才からを老化と言うのだろう。多くの女性が化粧をする。化粧は何のためにするのだろうか。やはり若々しく見せるためにするのだろうか。一方で年をとる程に魅力的になる人がいる。顔の皺はまさにエイジングそのもの。人格が顔に出るのだろうか。良い顔になりたいと思う。
Aging-02
ビンテージと呼ばれるギターがある。長い年月を経て、類のない音色になる。ただ時間が経てば良いわけではなく、上手な人に引き続けられなければならない。引き継がれて来た人によって音色も異なる。これもエイジングのひとつだ。そもそもが丹誠込めてつくられた良いギターである事が大前提でもある。
Aging-03
スピーカーはエイジング効果によって、しばらくしてからの方が音が良くなると言われている。これを「鳴らし込み」と言い、新品の時よりも明らかに音が良くなる。特に昔の紙製のコーンの場合はそれが顕著なのだそうだ。
Aging-04
ディスニーランドに代表されるテーマぱーくにはわざと時間の経過を感じさせる塗装を施した建物やベンチがある。エイジング塗装という。新品のトタン板とまるで廃墟のように風化させた趣にしてしまう。ウエザリングなどともいうそうだが、これら塗装のプロにかかればベニア板も大理石に早変わりだ。プラスチック製のベンチが古木製になってしまう。風化させてみせる所までは良いとしても、別物にしてしまうのはどうしたものか。
Aging-05
Leica(ライカ)というカメラメーカーをご存じだろうか。1925年に市販機の第1号を生産して以来、現在まで多くの名器を世に出し続けているドイツのカメラメーカーだ。現在ではデジタルカメラも生産しているが、面白いのはすでに生産終了したかつての中古カメラが全く熱の流通経路で市販させていて、そちらの方が現行品よりもはるかに人気があると言う事だ。新しいものよりも古いものの方が人気がある。良いものを作ってきた事が現在の経営を圧迫してしまうわけだから複雑だ。しかし凄いのはその人の手から手へ渡った、かつての全てのパーツを現在も用意している事だ。もの作りへの執念と言うほか無い。
Aging-06
使えば使うほどに味が出てくるものの代表的なものに革製品があるだろう。特にオイルレザーと呼ばれるものは逸品だ。革をタンニンでなめしたあとにオイルを浸透させたもので、耐久性が高まり、使うほどに味わいがまして美しくなる。上質なものは爪でこすって傷つけても、布で拭けばまったく跡が無くなってしまう。人の手によって皮が革になったわけだから、せめて革の寿命くらい永らえてあげたいものだ。
Aging-07
漆器や陶磁器、作家が丹誠込めてつくった器は手のひらの中で気持ちよく落ち着く。重さや厚さ、偶然か必然かは作者にしかわからない微妙な色合い、古来から人々を魅了して止まない。「大切にしまい込まないで使ってください。」と作者は言うが、割れてしまう事ある。感動的なのはその後だ。金で補修をする。補修の痕はしっかり残るのだが、無傷とはまたひと味違った価値が生まれたような気がしてくる。景色として楽しむ、侘び寂の境地もある。
新しい価値が生まれたのだ。
Aging-08
六本木ヒルズ、汐留、東京ミッドタウン、開発の手法は三者三様だがどれも美しい街が出来上がった。洗練された新しい街だ。住む事にお金がかかるという意味だけでも充分なステイタスを持つ事が出来るかも知れない。一方我らがオフィスを構える日本橋大伝馬町は400年の歴史の中で少しずつ変化をとげて今にある。大小様々種々雑多。多くの商売が行われ、多様な人が住み、ビジネスマンが闊歩する。歴史ある老舗もあれば、若いオーナーシェフのカフェもある。気鋭のアーティストもアトリエを構える。ここには歴史の流れの中に柔らかく呼応しているような背伸びをしない心地よさがある。さてどちらの街に住みたいと思うか。
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